出発間近だというのに、旅に出ることを両親にはまだ言っていない。早く言わないと。
修一とは、初めての1人旅のオーストラリアで出会い、その後の9年間に2人で1年から2年間の海外の旅を4回もしている。しかも前回は、
「ちょっと海外に行ってきまーす」
と言って出かけ、10カ月も帰らなかった。今回は2人でアパートを借りたまま旅に出るので、長く留守にもできないから、本当に2カ月くらいのちょっとの旅だけど、
「ちょっと行ってきまーす」
と、言っても信じてくれないんだろうな。
2人とも30歳を過ぎた大人なのに、両親がだんだんと厳しくなってきたのには理由がある。2年前にインドを旅しているとき、大地震があった。そのとき私は、ベナレス(注1)で40度以上の熱と下痢と嘔吐で苦しんでいて、地震のことなど知らないでいた(ベナレスは揺れなかった)。心配した姉がメールを毎日送ってくれていたのに、病気でそれどころではなく、1週間以上も見ることができなかった。しまいには、心配性の祖母が、
「夜中に和子が玄関に立っていた」
と言いだし、家族のみんなは私が死んで帰ってきたと思い、修一の実家にも電話して、大騒ぎになり、父が外務省に相談にいった。外務省の人も家族を亡くしてしまったかもしれない父に同情し、親切に相談にのってくれた。旅人の場合は、インドの大使館の人が同じような旅をしている日本人に「この人を知りませんか?」という聞き込みをして調べてくれると教えてくれたそうだ。翌日に捜索願を出すことにして帰宅したその夜に私からのメールが届き、無事がわかりホッとし、捜索願を出さずに済んだという事があったからなのだ。
旅に出る前日に2人で、アパートの近くにある私の実家に行き、両親に、
「明日からスリランカに行ってくる」
「どのくらい、行っているんだ?」
「1カ月」
本当は2カ月の予定だが、とても2カ月とは言えない雰囲気だ。それでも父は、
「なまけ者。2週間で帰ってこい!」
と、怒っている。
「2週間は無理だよ。メールはまめに送るからさあ。とにかく明日から行ってきまーす」
と、逃げるようにアパートに帰ってきた。
私は34歳、修一は30歳だというのに、いまだに旅大好きでやめられない。特に、初めての場所に行くときは、ワクワクしてしまう。あの刺激がたまらなくいい。でも、両親が健康だからこそ、旅に出られるのだ。こんな旅好きなダメ娘とダメ息子でも、旅から戻ったときは温かく迎えてくれる両親に感謝しています。