初めはね、アルが英雄になるって信じてたのは、おいらだけだったんだ。セレスだって、シェイラだって、最初は無理だって思ってたんだ。だから賭けはおいらの一人勝ち。金貨の山はおいらのものになったんだ!

 よく晴れた春の日の午後。街の広場の片隅で、吟遊詩人がリュートを爪弾いていた。その吟遊詩人は小人族の出身だから、まるで人間の子供のような外見をしている。だが彼のリュートの腕は確かで、美しい旋律を耳にした子供達が彼の前に集まり始めていた。
 十分な数の観客が集まった頃、吟遊詩人は演目を迷い始める。演奏、歌、物語。彼に出来る事は多かった。だが、観客の子供達は迷わない。彼らは口を揃えてこう言った。アレックス・バルトラールの物語が聞きたい、と。
すると吟遊詩人はリュートの曲調を変えた。弾き慣れたその曲は、彼がもっとも得意とする曲。かつて彼が自ら作曲した、英雄伝説のメインテーマだった。
 そしてリュートの美しい調べにのせて、吟遊詩人は語り始める。
 それは彼が知る最高の物語。アレックス・バルトラールの英雄物語を。

 幾つもの冬を越え、そして季節は春。
 フレイスラインの王宮へ続く街道を、豪奢な馬車が走っていく。馬車に乗っているのは病床の王に替わり国政を担っている第一王女セレスティーナとその二人の妹達。彼女達は他国で開催されていた国際会議を終え、母国であるフレイスライン王国へと帰ってきた所だった。
 このフレイスライン王国では数日後に魔王大戦終戦二百周年の式典を控えており、王女達は会議が終わったら即帰国という強行スケジュールの中にあった。
 王女達の馬車には護衛の兵達に加え、一人の王宮魔術師が同行している。その王宮魔術師こそ、後に英雄アレックスとして知られるようになる少年だった。だがこの時のアルは未熟な見習い魔術師でしかなく、英雄としての片鱗も感じられない。彼はごく普通の少年であった。

 フレイスラインに帰国したアルと王女達は、式典の準備を進めていく。
 しかし平和を願う式典に、忍び寄る黒い影があった。地上に残った魔族の残党が、式典に対するテロ攻撃を計画しているという情報があったのだ。
 おかげで式典の警備は厳重なものとなり、精鋭の親衛隊を式典会場に配置し、王国軍も会場の周囲に配置された。

 だが、式典の当日に起こった出来事は、その程度の警備では生温いと思えるくらいの、重大な事件だった。

身長:155cm
体重:47kg
年齢:18歳